アニマル漢方クラブ

はじめに、

獣医東洋医学研究会と私　

副会長　医学博士　獣医師　小松靖弘

　昨年11月に本好茂一会長が突然引退宣言をされ，名誉会長に就任しました。その後，当時副会長の長谷川篤彦先生が会長を引き受けられました。そして，本好前会長の“副会長をやりなさい”との一言で私の副会長が決まってしまいました。何をしたらよいのかわかりませんし，大した事ができるわけでもありませんが，会員の皆様のお役に立つことができれば，と思っている次第です。

　本研究会は年に３回ほど開催し24回を数えようとしています。

これから７年目に入ります。研究会を始めた当初は，漢方薬，漢方医学を主体に講演会，勉強会，学術報告会などを行ってきました。最近はアロマセラピーから鍼灸，健康食品まで幅広く扱われるようになり，このような狭い領域の中でもさまざまな変化が生じてきており，時間の経過というものを感じています。取り扱う幅が広がってくると，本会の名称も，ヒトのほうの日本代替医療学会と同じように，“獣医代替医療学会”として，他の研究会と団結するのも一つの方向かもしれません。

　ところで，もう随分と昔になりますが，本研究会の発足には世田谷区で開業されている川瀬　清先生との出会いが大きく関係しています。十数年も昔になるでしょうか，私がまだツムラの研究所で漢方薬の免疫薬理学的活性について実験していたころ，突然先生から電話がかかってきて“こんな症状にはどんな漢方薬がいい？”と，その時全く面識のない私に質問してきました。質問の内容も，また何と答えたかも忘れてしまいましたが，それから何度となく面識のないままずっと親しく電話で話を続けていました。その後２?３年経って，私が本社転勤になってから先生にお目にかかり，また本好先生ともお会いして漢方薬の獣医科領域における活用について討論してきました。そして先生方は，亡くなられた��張爛蕕猟殿悉甜妨飢馗垢箸皺餤弔気譟い修了�せ笋亘楔Φ羃颪寮瀘�砲△燭辰堂燭��蠹舛い垢襪茲Δ砲箸里�斥佞鬚い燭世④泙靴拭�

　そのようなわけで，平成４年度（と，思っているのですが）に京都で準備会を兼ねて，当時ツムラ漢方薬理研究所の所長をされていた，細谷英吉先生をお招きして講演会を開き，多数の先生方のご出席をいただきました事を思い出しています。

　これからも，長谷川先生の足を引っ張ることになるのか，先生方のお役に立てるのかわかりませんが，頑張っていきますのでどうぞよろしくお願い申し上げます。

なお，私は昭和39年３月に東京農工大学獣医学科を卒業した後，いくつかの製薬企業の研究職を25年ほど歩いてきました。その間，私のメインテーマは薬の免疫薬理学的活性，特に抗リウマチ薬に関する研究でしたが，最近は日和見感染症に対する漢方薬の役割について明らかにしたいと思って，その方面の研究を進めていきたいと考えています。

漢方医学の診断について

竹内裕司

　今回は臓腑弁証の各論について考察してみましょう。

１．肺の解剖と生理

　漢方医学でいう肺とは，組織器官としての肺と呼吸機能および一部の水分代謝，血液循環，体温調節などの生理的機能を包括したものです。

　肺の特徴をあげると下記のようになります。

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気を昇発または発散する。

濁気を呼き出す。

津液と栄養物質を全身に散布し，皮毛に行きわたらせる。

睦理（皮膚の間隙で気が外界と流通する門戸）を調整する。

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気を引き下げる。

清気を吸い込む。

津液を腎，膀胱へ下輸する。

気道を清潔にする。

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２．肺の病理

　肺の病変は，主に呼吸機能の異常や胸部の感覚・鼻・声の異常，水液代謝の変化として現れます。

　中医学的な用語を交えて証候を分類すると，虚証に属する肺病証は肺気失宣証，肺気失粛証，肺気虚証，肺陰虚証があり，この場合の咳嗽などの症状は慢性であまり激しくないのですが，疲労すると増悪します。

　一方，実証に属するのは（風）寒邪犯肺証，熱邪壅肺証，

燥邪犯肺証，痰湿（飲）阻肺証があり，この場合の咳嗽，鼻閉などの症状は急性で比較的激しくなります。

（１）肺気失宣証，肺気失粛証

　肺気失宣の多くは外邪の侵入により起こり，一般的には疾病の初期にみられ，表証を伴うことが多くなります。つまり，衛気の流通が阻害され，肺の宣発機能が失調した状態です。

　肺気失粛は疾病が長期化し，外邪が熱化したり，痰濁が増加したりすると起こる肺の粛降機能が失調した状態です。これが津液代謝にまで影響を及ぼすと水気が停滞して痰を生じます。

（２）肺気虚証

　症状は肺の症状と一般的気虚症状に分けることができます。つまり，肺は津液代謝に関与しているので，気虚になってこの機能が低下すると，上半身に浮腫を伴うことが多くなります。また，衛気が不足して防衛機能が低下すると，風邪にかかりやすくなります。

　これは現代医学の慢性気管支炎，肺気腫に該当します。

（３）肺陰虚証

　陰虚独特の症状として，乾燥症状と火旺症状が現れます。

また，長期化すると削痩することが多くなり，一般に腎陰虚も同時に現れます。

　これは現代医学の慢性気管支炎に該当します。

（４）（風）寒邪犯肺証

　肺の宣発，粛降の作用が失調して肺気の上逆を生じ咳逆上気した結果，希薄清澄な痰を出すようになります。

　これは現代医学の急・慢性気管支炎，気管支喘息に該当します。

（５）熱邪壅肺証

　風寒あるいは風熱の外感により熱邪が肺を壅いで盛んになった場合や，肝火や心火の熱が肺を犯した場合などに起こります。

　これは現代医学の急性気管支炎，肺炎，肺膿瘍，気管支拡張症に該当します。

（６）燥邪犯肺証

　肺が燥熱の邪に侵されたもので，秋季に多くみられます。

空気が乾燥した場合に引き起こされるような症状を現します。

　これは現代医学の感冒，気管支炎に該当します。

（７）痰湿（飲）阻肺証

　肺に水毒（痰濁）が貯留して気道が阻害されたものです。

　これは現代医学の慢性気管支炎，気管支拡張症に該当します。